1983年の症例であり、治療費は現在の基準(消費税も含め)と異なりますが、
インプラントの長期経過をお伝えするために掲載しています。

治療概要

患者様
初診時54歳(1980年当時) 男性
診察結果
歯牙の欠損、骨の欠損(インプラント困難)
治療内容
骨増生、インプラントによる補綴
治療完了日と治療期間
1983年4月13日(2年3ヶ月)
総治療費
約650万円(1983年当時)
治療後のメンテナンス
かみ合わせや衛生状態のチェック。
その他
インプラント専用歯ブラシと歯磨き粉による日常ケアを指導。

患者様の相談内容

「奥歯が無くなり、入れ歯では噛めない。なにか治療法はないか?」
という主訴で来院されました。(1980年)
他院では義歯(取り外しできる入れ歯)しか選択肢がないと言われ、当院を受診されました。

  • 当時一般的な治療法では義歯(入れ歯)しか治療法はないと言われた
  • 入れ歯は使用したくない

山道歯科の診断

臼歯部(奥歯)はほとんど残っていない状態でした。
また、左下は骨が大きく吸収し、下顎管(内部に神経・動脈・静脈が走行している管)までの距離がないため、このままではインプラントはできません。
このように大きく骨が吸収している場合、入れ歯も非常に不安定で使用が難しい場合が多くあります。

長期間の入れ歯の使用により左下(L側)の骨が大きく吸収している。
入れ歯であったために奥歯はほとんど残っていない。

また、残っている前歯も根が吸収され短くなっていましたが、ひとまず歯を残し、将来的に悪くなれば抜歯するという方針になりました。

インプラントを行うためには骨が欠損しインプラントを入れるための骨が不足している部位に、ティッシュエンジニアリングを応用した垂直的歯槽骨増大術を行う方針になりました。
骨造成には人工の骨を使用します。自分の骨が人工の骨と馴染むまでに最低3ヶ月から6ヶ月は待たないと質の良い骨は出来ません。質のよく無い骨にいくらインプラントを行っても、生物学的リモデリングという生体が本来持つ恒常性を維ための機構により、作った骨が代謝され吸収してしまいます。インプラント埋入後の骨吸収というのはインプラント周囲炎などを惹起させるファクターになり得る極めて厄介な現象です。これは、骨造成前のリスク診断から執刀医の骨造成術の技術的要素、さらには補綴物設計、噛み合わせのコントロールまで何百という非常に綿密なステップを全てクリアしてのみ長期的に持つインプラント治療が可能となります。単純に、骨が無いので骨を作りました、インプラントを入れました、被せ物を被せますという様な流れ作業ではありません。一人一人の生体反応や噛み合わせの特性を診査診断した上で治療計画を立て、それを全て精密に時にはクリエイティブに実行できる臨床能力を持った歯科医師が施術しなければインプラントは容易に悪くなります。

1980年当時にインプラント治療を選択するまで

1980年当時、インプラントは日本ではまだそれほど一般的な治療法ではありませんでした。
現在では当たり前に使用されているチタン性の歯根型インプラントが、世界初のインプラントシステム・ブローネマルクインプラントシステムとして人体に応用されたのは1965年のことです。
当院院長・山道信之は早期からインプラント治療を学び、研究を行ってきました。現在までに多くの論文や書籍を執筆し、本年も米国のJournal of Periodontology に副院長・山道研介も参加した共著論文が掲載されました。
1980年頃には山道歯科医院ではインプラントや骨増生(骨が欠損した部分に新たな骨をつくる)をすでに多数行っており、予後も良好であったため、積極的にインプラント治療を行っていました。

  • 骨の欠損がある場合、骨増生が必要
  • 欠損が大きい場合、インプラントに先立ち骨増生の手術となる場合がある
  • 歯牙の欠損には多くの場合、インプラント治療が可能である

治療の流れ

まずは、骨増生のための準備から開始しました。
当時は材料や技術が発展しておらず、骨造成における技術も確立されたものではありませんでした。骨を作ると言っても、どうやって作ればいいか、誰もやっていない時期です。もちろん教えてくれる人もいませんでした。頭の中で試行錯誤の末、このようなフレームを作成し、これを応用した手術を行えば骨ができると考え使用しました。現在ではこの技術をさらに発展させ、日本や世界におけるインプラント臨床の発展のために論文や書籍に纏めました。論文や書籍に纏めることで、当院のインプラント治療の技術はエビデンスの一部となりました。

昨今、インプラント治療や歯科臨床の界隈でもEvidenced Based Medicine(EBM)といった、根拠に基づいた医療の提供という事が囁かれていますが、歯科インプラントが臨床応用される様になってから早や50年、様々な技術や材料が世界中で報告されてきました。この方法はインプラントと骨が早くくっつくだとか、骨が早くできるだとか、短いインプラントでも全然問題ないとか、28本全ての歯を支えるのに4本のインプラントで大丈夫だとか、様々な先生が様々な事を報告しています。執刀医はその膨大な情報の中から、何を選択して、どの様な方法で目の前の患者さんを治療するかを強いられます。

当院から世界に発信してきた治療技術は当院独自のノウハウとしても蓄積され、さらに進化させ、世界でも歴史ある歯学論文に出版しています。現在でも当院副院長山道研介は、山道歯科医院で臨床を行う傍ら、九州大学でインプラントの基礎的研究を行っています。

骨造成時に使用する山道院長自作フレーム
メンブレン(膜状の材料)を装着(参考写真)

局所麻酔下で、骨増生手術を行いました。
所要時間はおよそ2時間です。

術後のX線検査。フレームが入っているのがわかる。

手術から3ヶ月後、この患者さまは骨の欠損が非常に大きかったため、2回目の骨増生を行いました。

2回目の手術後のX線検査。1回目よりも高い位置まで骨増生した。

2回目の手術から4ヶ月後、インプラントを埋入しました。
さらに右上の奥歯、右下の奥歯、右下の前歯、左上の奥歯にそれぞれインプラントを埋入していきました。
インプラント埋入手術は、5回に分けて実施しました。

最終的なX線写真。全部で14本のインプラントを埋入した。
  • 骨増生を行う場合、インプラント手術だけの場合に比べると治療期間が必要
  • 現在ではかなり減ったが、骨欠損が大きいと骨増生を2回に分ける場合がある
  • 骨増生から4〜5ヶ月後:インプラント一次手術(埋入)
  • 一次手術から4〜5ヶ月後:インプラント二次手術
  • 上部構造作製・装着

治療期間終了後

最初のインプラント手術終了から23年後

23年間は大きな問題はなく、定期的なメインテナンスや虫歯の治療などを行っていました。

その後、ご自身の前歯が割れるなどし、抜歯が必要となりました。
また、初診時から根が短かった下顎の前歯も寿命と判断し、抜歯しました。

さらに、左上の奥歯が割れないよう、長年1本不足していた左上第二大臼歯部にもインプラントを追加しました。

この患者さまはインプラントに非常に満足されていたため、その後の治療もインプラントを選択されました。

最初のインプラント手術終了から35年後

良く一生持つ家などと言いますが、ご覧の様に、インプラント治療は条件が揃い適切に行った場合限りますが、一生機能させることも可能です。しかし、インプラント治療を行った場合でも、もともと状態のよくない歯があった場合、数年後〜数十年後にその部分の治療が必要になる可能性は高いです。
しかし、治療方法上の特性として、インプラントはブリッジと異なり、周りの歯を削るなどの必要性がありません。入れ歯は残っている歯に金具をかけるため、残っている歯の負担が増加します。この様なことを踏まえ、ご自身の口腔内はどの様な治療方法が適しているかを今一度ご検討されることをお勧めいたします。
インプラント治療は適切に行えば長く機能させる事が可能です。

なお、その後インプラントは問題なく機能し、ご高齢になられた現在もしっかりとお食事が摂れています。

治療等の主なリスクや副作用等

インプラント治療及び骨造成治療は外科処置を伴いますので、術後に腫れたり、痛みを伴うことがあります。個人差もありますが通常1週間程度、腫れや痛みが持続します。部位により腫れやすい部位や痛みやすい部位がありますので、詳しくは治療計画説明の時にお伝えいたします。

治療開始前の診断

上記説明は例を挙げての治療の説明であり、個々の患者様の状態等により治療の費用、方法や結果が異なります。治療の方針や治療費、治療等の主なリスクや副作用等に関しては治療開始前にご説明しますので、まずは当院まで治療の相談を予約して下さい。